大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)1221号 判決

被告人 山本長一郎 外四名

〔抄 録〕

一、論旨第二点について。

所論は、「昭和二五年七月三日東京都条例第四四号、集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例は憲法に違反するものであるから、これに基く本件警察職員の行動は適法な公務の執行ではない。従つて被告人等の行為は不正の攻撃に対する正当防衛であり、公務執行妨害の成立する理由がない」と主張する。しかしながら、憲法の保障する集会、集団行進、集団示威運動に関する権利といえども、公共の秩序を維持し、または公共の福祉が著しく害されることを防止するために、必要かつやむをえない限度においては、これを制限することができるものと解するのを相当とする。そこで、本件で問題になつている前記東京都条例をみると、個々の条文の規定のしかたには、集会、集団行進または集団示威運動につき一般的、抽象的な制限を定めた部分があり、国民の基本的人権を著しく制限するような疑をさしはさむ余地がないでもないが、その条例の趣旨全体を総合して考察すれば、本件の条例は、集会、集団行進、集団示威運動そのものを一般的に許可制によつて抑制する趣旨ではなく、他の別の観点から特定の場所または方法についてのみ制限する場合があることを定めたものと解せられ、その制限は公共の福祉のためやむをえない限度を越えていないものと認められるから、右条例は国民の基本的人権及び公共の福祉に関する憲法の諸規定に違反しないといわなければならない。従つて右条例に基く原判示警察職員の職務執行は適法なものであるからその職務執行を妨害した被告人等に原判決認定のような刑事責任が存することは明白であり、被告人等の行為が到底正当防衛であるということはできない。要するに、原判決にはなんら所論のような法令適用の誤りは存しないから所論は採用し難く、本論旨は理由がない。

一、論旨第三点について。

前記東京都条例第四条(但し昭和二九年条例第五五号で改正前のもの)が警察長は公安委員会の許可を受けないで行われた集会、集団行進又は集団示威運動の参加者に対して、公共の秩序を維持するため警告を発し、その行為を制止し、その他その違法行為を是正するにつき必要な限度において所要の措置をとることができるものとしていること、本件において神楽坂警察署勤務警部福島玉男以下原判示警察職員に対し、本件集団示威運動の制止を命じたのは神楽坂警察署長であつたことはいずれも論旨に指摘するとおりであるが、原審証人戸田喜代房の証言によれば右条例第四条に規定する警察長である警視総監の権限は、昭和二五年七月三日附警視庁警邏交通部長の依命通牒により、緊急の場合には各警察署長においてこれを行使できることに委任されていることが明らかであるから、前記神楽坂警察署長の命じた制止措置は適法であるといわなければならない。所論は「前記条例第四条は制止措置を警察長の権限に専属させた趣旨であるからこれを警察署長に委任した右依命通牒は無効であり、従つて神楽坂警察署長には制止措置命令を発する権限がないからその命令に基いて行われた制止解散措置は違法である」と主張しているが、警察法の定めるところによれば、警察長は部下の職員を指揮監督し、警察署長は上司の指揮監督を受けて管轄区域内における警察事務を執行し、部下の職員を指揮監督する関係にあることが明らかであるばかりでなく、警察長が緊急の場合に、前記条例第四条所定の権限を部下である警察署長に委任することを禁ずべき理由はすこしも存在しないから右委任を違法または無効とする理由はない。従つて原判示神楽坂警察署長の発した制止措置命令が無権限者のなした違法または無効のものであることを前提として、原判示各警察職員が本件集団示威行進を制止解散させるためにとつた措置が違法であり、公務の執行に当らないと主張し、延いて原判決の法令適用に誤りがあるとする所論は採用し難く、本論旨もまた理由がない。

(花輪 山本 下関)

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